本職の網打ち漁師はほんの数名となってしまいましたが、自宅には魚種別に20〜30枚もの投網がころがっていたり、店には過去の栄光を語る写真とともに投網がきれいに飾ってあったりします。で、その構造はどうなっているのか。02年暮れに20枚発注した注文書から解説します。

広げるとタタミ10畳
 注文書は今も寸尺が使われています。上から、『6号のナイロン糸で菱形の網目の寸法が2.5寸、上下に5個(欠=節)つらなっており、ぐるりと一周したとき合計60の目数(めかず)で。この要領で最下段の10枚目まで、指示した数値通りつくって下さいね』というものです。
 10枚目は、8号の糸で2.5寸の菱形を上下に20節連ね、一周すると目数が600。1〜10枚を連結させて編み込んでもらうわけです。広げるとタタミ10畳ほどになります。

テグスについて
テグスは釣り糸などのことを指しますが、漢字で書くと天蚕糸。投網などの漁網はもともとは絹糸(綿糸、麻糸)だったということです。そして、それだけでは弱いので、柿の渋などを塗って強度を出していました。
岩について
 網口についているオモリをなぜ『岩』というのかは不明。先達には、そのかたまりが岩のように見えたから?と思われます。形は写真のごとく。細くて中太の三日月。この両端に縄を通す穴があって、今でも漁師は縄通しを自分でやります。
★1つ8cmで25gあります。
この投網では180個付いており重量は4,5kg。網の重さが約1kgですから総重量5.5kgとなります。

昔はテグスから網をつくった
  師は師匠とか師範とかの意味ですが、では漁師って何? 魚を取る先生ではありますが、それだけではありません。道具をつくる、一からつくってしまう。それが独自のものであり、工夫がなされている。これができてはじめて漁師……。
 われわれの親父たちは投網をテグスからつくっていました。漁の合間合間につくって1年がかりの網もありました。目合、枚数(段数)、岩の重さ、形状など、個々に工夫をかさね、今のスタイルになりました。おのおの、自分だけの図面をもっていたんです。そして今でも大事にしまってある。注文書はそのコピーなんです。  ところで、投網を編み込むための道具も全部自前です。アバリという竹の針など、自分で切り出してつくる。それをごまんともっている。岩にしても、鉛を溶かし、型に流してオリジナルでつくる。昔は、当たり前のこととしてやっていたわけで、優秀な漁師は水産系の学校に講師として出向いたりしていました。